松田の「これ知っとるか?」

第3回:Various Artists“Caroline Now!”の巻

2000.8

みなさん元気ですか。ベース担当の松田です。このコーナーは私のお気に入り盤について語らせていただくコーナーなのですが、ずいぶん久しぶりの更新になってしまいました。今回は”Caroline Now!”というブライアン・ウィルソン(及びビーチボーイズ)のトリビュート盤について触れさせてもらいます。ついこのあいだ買ってきたばかりのやつなんですけど、ずうっとこれを聴いていて盛り上がっているわけです。

ブライアン・ウィルソンのトリビュートと聞いて、またか?と思う人は案外多いのではないだろうか。実は私も、どうしてまた今更?なんて思ってしまったのだ。ここのところブライアン・ウィルソン・フォロワーみたいな人達がやたら元気なのだ、ということがひとつは言えることかもしれません。フレミング・リップスなんかもそうなんですけど、ハイ・ラマズあたりだと、もっと全編モロにそんな感じですし、そういえばコーネリアスの「ファンタズマ」もそんな感じでしたなあ、とかですね。シカゴの音響的な人達やエレファント6界隈のグループが参加した「スマイリング・ペッツ」というカバー集が出たのは、2年前位だったか。もうちょっと前だと、ソニック・ユースとかが参加していたトリビュート集というのもありましたですね。ようするに、なんとなく見逃せない事をやってる人達の共通項として、いつもそのどこかにブライアン・ウィルソン的なものがあるという印象なのです。そしてそれは、いわゆるありがちな一過性のものではなく、ここ10年くらいの間でじわじわと浸透しつつ、今もって進行中という感じなのだ。思えば私がビーチボーイズをいわゆる「サーフィン/ホットロッド」的パブリックイメージな観点から外れた目で接するようになったのは、ルイ・フィリップがきっかけなのであった。80年代後半の頃の話ですね。当時、初めて聴いた「ペット・サウンズ」は、幾分わかりにくい作品だなあ、なんて思ったものです。「サージャント・ペパーズ」に対する印象と近くて、時代背景を考えた上でとにかく革新的な手法・発想で作られた作品であったという以上の直感的な刺激を、正直言って得る事ができなかったのであった。でも今ではこの作品の良さが、なんとなくわかるようになった気がする。それは単純に私がその時よりも大人になったということかもしれないし、なんて言うんだろう?例えば「少しの間」というインストゥルメンタルの曲を聴きながら今思うのは、非常に美しいアンサンブルであるのだが、そこにどこか破壊的な「歪み」みたいなものを感じさせるものがあるわけで、そういった危うさが昨今の優れたアーティスト達の放出している空気感とシンクロするものがあるというか、似たような解釈を見出せる事ができるということなのかもしれないなあ、なんて思うわけです。

なんていうような屁理屈はこのくらいにして(笑)、このアルバム、参加メンツがとにかくすごいんですねえ。決して豪華メンバーというわけではないのだが、オレ的なツボをおさえまくった人選で、嬉しくなってしまったではないですか。しかし選曲の方は私の知らない曲もたくさんあって、これがまた一筋縄ではいかないわけです。24曲も入っていて、さすがに全曲を紹介できるような知識も気力も持ち合わせていないのですが、個人的に「お?」と思わせるような特におすすめのところだけ、かいつまんでコメントして参ります。

まず1曲目で元ヴァセリンズ/ユージニアスのユージン・ケリーが久しぶりに復帰しているのが嬉しい。この”Lady”という曲、オリジナルはデニス・ウィルソン名義で出たシングルで、スプリングの”Fallin' Love”はこの曲を改作したものなのだそうですが、この暗めの曲を朗々と歌うユージンには、少々複雑な気持ちにさせられます。ストリングスが大フューチャーされて美しいのだが、こういうキャラじゃなかったろおまえは!なんて思わず突っ込みたくなるのであった。でも、しみじみしてなんだか良いですな。いや、私はこの人に対しては結構な思い入れがあるわけでして、うーむ、なんて思ってしまった。がんばれ(笑)。

4曲目の”Wind Chimes”は、ビル・ウェルズのピアノだけで歌っているパステルズのカトリーナ・ミッチェルがとにかく素晴らしいです。声自体もそうですが、この人の声の揺れ方にはいつもグッと来てしまう。これはある意味でオリジナル曲の持っている本質に迫る気迫のこもったカバーといえるのではないだろうか。最もシンプルと思われる手段で、ここまで表現してしまうのが本当に素晴らしい。ゆるいような、メラメラしてるような不思議な世界が堪能できます。残念な事に、このテイクは2分ちょっとで不自然にフェイドアウトされてしまうのだが、ほんとはもっとずっと延々とやってるのではないだろうか。パステルズについては、いつかこのコーナーでもじっくり取り上げてみたいなんて思っております。


しかし次、5曲目の”Anna Lee, The Healer”を余裕でかましているハイ・ラマズが個人的にはやはりベストかな!あの独特なスタイルを確立させて久しいハイ・ラマズが、この曲をこういうアレンジでやることについては、もはや何の意外性も無いのではあるが、ここまでハマってるカバーというのは、そうそう無いような気がする。ある種の決着をつけてるみたいな印象を受けました。これだよ、と私は思う。文句無しに。そういえば12曲目に入ってるセイント・エチエンヌが、近作でショーン・オハーガンと共演していたせいか、どことなくハイ・ラマズっぽくなってるのが、面白いですね。

思わぬ発見だったのが14曲目で”Lonely Sea”という曲をやっているエリック・マシューズという人なのであった。この人って確かリチャード・デイビスとカージナルズというバンドをやっていた人ではなかったか、という記憶しかないのですが、しかもこの曲のオリジナルも聴いた事がないのですが、ツボなコーラスワークと後半で入ってくる哀愁のトランペットがなかなか良い味を醸し出していて、気に入ってしまった。今度この人のアルバムを探しに行ってみようと思いました。こういう発見があるのがトリビュート盤の良いところですね。

ほか、アレックス・チルトンや、キム・フォーリーといった渋目な人達やジューン&イグジット・ハウンズ、アルミナム・グループ、ベルセバのスティービー・ジャクソン、TFCのノーマンやBMXのダグラス(この人、このアルバムの数曲でプロデューサーとして大活躍しています)、あとジャド・フェアもいるぞとか、フリー・デザインのは何と新録なのだとか、とかとかとか...。誰が集めてきたのか、本当に面白いメンツが大集合なのですね。何気に目立つグラスゴー勢が、比較的のんびりしたムードで参戦しているのが、何というか微笑ましかったりする。トリビュート盤の類いもやや出尽くした感がある中、ましてやまたかよ、という感のあるブライアン・ウィルソンで、ここまで楽しめる事ができるのは、やはり人選によるところが大きいのかもしれないですが、今の心境に微妙にフィットするこれら複数のアーティストたちがもたらす、ある種、統一感のある感覚について、ぼんやりと考える私なのであった。夏ももうすぐ終りだなあ、なんて思いながらですね。


ではまた。





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(蛇足)

”Caroline Now! 〜 The Song of Brian Wilson and The Beach Boys”
ライナーには参加アーティストや曲についての解説のほか、ブライアン・ウィルソンのインタビューが載っていて、なかなか充実しています(英語ですが)。発売元であるMarinaのサイトでは試聴もできるようなので、興味のある方は覗いてみてください。こちらです↓
http://www.marina.com/
ma50.htm




国内盤として88年秋に初CD化された「ペット・サウンズ」は、山下達郎氏による濃いライナー付で未発表曲2曲入りというものであったが、その2曲の権利問題のためか、すぐに廃盤になってしまって、一時は法外な値段で売られてましたですね。山下氏については、最も正統的なブライアン継承者の一人だと思うのですが、あまりに破綻がなさすぎるような気がして、私はあまり興味が無かったりします(ファンの方、すみません)。全然関係ないですけど、わりと早い時期にビーチ・ボーイズの音楽性について語っていた人の一人として、村上春樹が印象に残っています。













ちなみにビーチ・ボーイズで好きな曲を3曲挙げるとするならば、私の場合は”Aren't You Glad”、”When A Man Needs A Woman”、”Time To Get Alone”あたりかな。あ、”God Only Knows”はもちろんって感じであります。しかし、アルバムでいくと「ペット・サウンズ」よりも「フレンズ」や「20/20」の方が聴いた回数は多いかも。初期だとやはり”Don't Worry Baby”が良いですね。ワーナー時代は「サンフラワー」以降のはあまり熱心に聴いて無いです。というか、ほとんど持ってないじゃん。ブライアン・ウィルソンについて私は、とりたてて熱心なリスナーとは言えないかもしれません。実はこの前のアルバムも未聴だったりして。しかし彼のベースアレンジ(そう、彼はベーシストなのだった)は、非常に学術的ですねえ。特に「ペット・サウンズ」における執拗なまでのルートの外し方は、とても勉強になります。そういえば今気が付いたのですが、彼が弾いていたのも、ムスタング・ベースではなかったか。