松田の「これ知っとるか?」






第15回:<こんなん聴いてましたけど>の巻

2003.11
みなさんこんにちは。ベース担当の松田です。すっかり肌寒くなってしまいました。このコーナーは、季節をワープしながら私の最近のおすすめ盤などをノリノリで紹介するというコーナーです。約半年以上ぶりの更新ということで、なかなかゴキゲンだ。というわけで、今回は真面目に参りたい、なんて思っておりますの。だいぶ酔っ払ってるんですが。

いや、ほんとに最近は良いなあと思えるレコードが何気にたくさん出ているようでして、私も大変だ。チャーハンが食べたくなってきた。
今回はこの半年間で最も感銘を受けた音盤を紹介したいと思う。言うならば恋愛指南だ。いい気になるなよ。



(蛇足)

今回はけっこう勢いで書いてしまってるので、あえてフォローはしません。



































Joao Gilberto "Joao Voz e viotao"(CD)
9月に実現した奇跡の来日公演、私は初日のを見た。なんだかものすごいものを見た、という感じだった。まず、1時間遅れで開場(開演じゃなくて、開場ですよ!)、すると「アーチスト側の要望により演奏中はエアコンと非常灯を切っちゃうのでヨロシク」的な場内アナウンス。さらに「演奏途中にケータイなんて鳴らすアホがおったら、ジョアンは怒って帰っちゃうかもしれないので、くれぐれもそこんとこヨロシク。マジで」的な警告。こわい。怯えまくりだ。しかし12000円も払いまくって見に来ているお客さん(私含む)は、そんなことより今日はほんとにやるんかい、という異様な期待(と不安)でいっぱいいっぱいだ。そんな緊張感溢れる静けさの中、いよいよジョアンの登場。ボサノヴァの神様、と崇められまくっている彼は、ほんとうに神様がいるとしたらこういう感じの人かもしれない、と思わせるようなとっつきにくそうなおじさんであった。真暗闇に淡いスポットライトがひとつ、怪しげなサーカス小屋でなにかとんでもないものを見てしまっているような異様な興奮度だった。おそらくこだわりにこだわり抜かれたであろうPAから出てくる音量はとても小さく、生音のように聴こえまくる。本物のボサノヴァだ。しかし、始まってから30分くらい経って、私はうとうとしてきてしまった。退屈だったから、ではない。目を閉じて聴いていると、だんだん深い闇に吸い込まれまくるのだ。深い闇の奥を覗くと、ジョアン・ジルベルトが歌っているのが見える。闇の中にいるジョアンは、私一人のために演奏しまくっている。私は眠っていたのかもしれないと思ったが、いや、眠ったりなんぞ、しない。するわけがない。それはほんの一瞬の出来事だった。題して「脳内ジョアン体験」だった。マジで。
「ディサフィナード」の後半のリフレインを聴きながら、ああもうこれで終りなのかな、と直感で感じたら、やはりそこで本編終了。しかし期待していなかったアンコールに応えまくって、再び登場。「もしかして、機嫌が良い?」と私は直感で思った。信じられない瞬間だ。その後ジョアンは約50分も歌いまくり、「想いあふれて」でコンサートは終了した。
このアルバムは「声とギター」というタイトル通り、ひとつの声とギターだけで作られた3年前の作品。おそらく、ものすごい集中力で一瞬のうちに録りまくったアルバムではないか。「デザフィナード」を中間に挟み「想いあふれて」で終わる約30分。さほど数が多いわけでもないジョアン作品の中で、あのコンサートの後では、これが一番良いと思うようになりました。誰にも言うなよ。ゲッツのテナーサックスがウルサイ、という意味がどういうことかも、よくわかるようになってしまった。マジで。














Robert Wyatt "Cuckooland"(CD)
Lou's Pale Horse「灰色プリン」に入っている「シップビルディング」は、どちらかというとコステロというよりもこの人のバージョンを意識してのカバーだったりするのですが、実はロバート・ワイアットについて私はそれほど熱心なファンというわけではないのでした。しかし、とりあえず数枚持っているレコードはどれも大好きで、もしかすると気が向いた時があったら、持ってないレコードを全部買って揃えてしまうかもしれないという感じではあって、私にとっては微妙な位置にいるアーチストさんです。だからどうしたというわけではないが。で、これは6年ぶりの新作。前作同様、なかなか豪華なゲストが入っているようですが、とりわけブライアン・イーノのカラーが強いという前評判が気になっておりました。しかし、いわゆるアンビエントな雰囲気もまあ確かにあるのだけど、どちらかというと、スタイルの話ではなく、非常にニュートラルな意味でのジャズ、という感じがしました。前半と後半の間に約30秒間のブランクが入っていて、アルバムって感じの作りになっていて、国内盤は丁寧にもボーナストラックが別ディスクで付いている。いい気なものだ。真摯というか良心を感じさせるアルバムです。ボサノバのカバー「How Insenatez」はちょっとびっくりしました。心に染みる。マジで。



















V.A. "Stop me if you think you've heard this one before"(CD)
ラフトレードが発足して今年で25周年にもなるそうで、これはその記念盤、現ラフトレード所属アーチストによる過去ラフトレード音源のカバーアルバムです。最近のはすっかり疎いので、ベル&セバスチャンとエリザベス・フレイザー(コクトーツインズって解散したのですかね?)以外は初めて聴く人達ばっかりだったですが、曲はいわゆるクラシックなものから、ストロークスまで幅広く、なかなか楽しめる選曲でした。アルバム・タイトルはスミスの曲名であって、ラフトレードといえばやっぱりスミスだろ、と思ってしまうのですが、誰もカバーしていないです。いい気なものだ。確かにやりにくいのかもしれない。
そんな中、フィーリーズの”Fa Ce La”をカバーしているEastern Lane、TVパーソナリティをカバーしているJeffrey Lewisがゴキゲンで気に入りました。全体的にどこかカラっとしていて、いわゆるニューウェイブな感覚を全然感じさせないところが、なんか面白いと思った。ラフトレードについては特に初期、レーベル自体に「ポストなんとか」とか「アンチなんとか」とか、今だとなんのこっちゃいかもしれない気概みたいなのが凛として成り立っている印象があったのですが、個人的にリアルタイムだったのはやはりスミスあたりからでして、あまり偉そうなことはわかりません。そういう意味でヤング・マーブル・ジャイアンツを悪ノリなエレポップ風に解釈しているベル&セバスチャンに同世代的親近感を感じてしまったり、エリザベス・フレイザー(”At Last I'm Free”をわりと素直にカバーしています)くらいの変わらなさに安心したりしてします。マジで。












和田アキ子 "潟純_アキコ"(CD)
歌手デビューして今年で35周年になるそうで、これはその記念盤。過去のレパートリーからのセルフカバーとなっています。ラフトレードより10年も長い。プロデュースは小西康陽氏。レアグルーブ・クラシック「ボーイ・アンド・ガール2003」に始まり、ジェムス・ジェマーソンなベースがかっこいい「悩み無用!」、ジュリー・ドリスコールかと思うような「どしゃぶりの雨の中で」、ノーザンな「笑って許して」や,オルガン・ジャズな「古い日記」(ハッ!)など、代表曲はばっちり網羅されています。全編すっごくヒップなアルバム。「夏の夜のサンバ」とラストのゴスペル風な「抱擁」がベストかな。わりと活動歴の長い歌謡曲系の歌手で、いわゆる「今風の人とやってみました」みたいな、企画モノかマジなのかわかりにくいものって時々ありますが、当の本人の照れが見えてしまったり、なんか媚びてるなーというのが見えてしまうと「ああこの人、負けてる」と思ってしまう。このアルバムはそういう意味では半分冗談か?みたいなところもあってキワキワなのだが、肝心の歌がちゃんとカッコいいので、そこにプライドの高さみたいなのが感じられて、とても好感を持ちました。グレイト。マジで。







The High Llamas ”Beet,Maize & Corn”(CD)
3年ぶりの新作、とのこと。比較的コンスタントに新作をリリースしてきたのを考えると、3年は長い。一聴した印象では、やはり今までとはちょっと違うぜ的な雰囲気を強く感じましたが、楽曲のスタイルに揺ぎが無いので、違和感が全然ないじゃないか。今までは、電子音を巧みに絡める事によって、どこか近未来風というか、独特なスタイルを構築してきた人だったのですが、そっちの方向へは行かず、今回はほとんど生っぽい編成になっています。ふむ、なんだか確信的だ。聴くところによるとショーン・オハーガンは、50年代の音楽の音質を研究していて、こういう感じになったとの事で、結果、バーパンク風なサウンドになっているのが面白いです。美しい。この編成でライブを見てみたいなあと思いました。マジで。故メアリー・ハンセンも参加しているようで、彼女へのクレジットに涙する。














Yo La Tengo "Today Is The Day"(CDS)
サン・ラ・ホーンズと共演したフジロックの興奮もいまだやまずのヨ・ラ・テンゴ、全6曲入りニューシングルです。”Summer Sun”からのカットですが、アルバムとは全くの別テイクになっていて、どうしちゃったんだろ、というくらいラウドなバージョンになっています。最初の3曲はほぼその系統で飛ばす。最高だ。あほちゃうか。ここ最近のアルバムは、どこかジャズ的な要素が加わってきて「うーむ、深い」などと唸っていた私だが、シングルで、しかも来日直前になって、こういう忘れかけてたような一面を引っ張り出してくるところがまた萌え萌えじゃないか。後半はバート・ヤンシュのカバー”Needle Of Death”や前作アルバム収録曲のアコギ・バージョンも収録していて、これもまた良い。国内盤には「ニュークリア・ウォー」全4バージョンもカップリングされているそうです。まだの方は買いです。しかしもう、まったく実際のところ、ここ数年のヨ・ラ・テンゴにハズレなし!クアトロのライブがますます楽しみになってきました。なんでも今度の来日公演は、各地それぞれフロントアクトが決定して一旦は正式に公表されてたものの、土壇場になってそれらがすべてキャンセルになったようです。理由はヨ・ラ・テンゴ側が2時間半たっぷり演奏したいから、なのだそうだ。うわ、これは絶対すごいことがおこりそうだ。マジで。
















Echo & The Bunnymen "Ocean Rain"(CD)
エコバニの最初の5作が一挙、ボーナストラック付でリマスタリングされて店頭に並んでいました。途中ヴォーカリストが変わったりなんていうスットコドッコイな展開もありましたが、あれはまあ無かったということになっていて(笑)今も現役のバンドです。初期のレパートリーがふんだんに演奏されているというわりと最近のライブ盤が出たり、つい先日も地味に来日したばっかりだったりなのだが、そっちには全然興味がないんですけど、失礼ながらこういうのはつい買ってしまう。これはノスタルジーなんかでは無くて、なんつって語るつもりは私はなくて、つまり単なるノスタルジーで聴いているオレだ。ちゃっかりしてるよ。でもちょっと迷った結果、買うのはこれ1枚だけにしました。私の記憶だとこのアルバムは当時、あまり高く評価されていなかったような気がする。いわゆるひとつの「ポーキュパイン」の後でこれかよ、みたいな感じだった。まあ確かに過渡期的な作品ではあるけど、私は今聴いてもこれが一番好きです。断言。当時はスミスとかペイル・ファウンテンズとか出てきて、バニーメンよお前もかみたいな感じだったですが、この大袈裟なストリングスがなんか妙にツボでして、特にB面。恥ずかしくなってくるような記憶と併せて蘇る84年の初夏の匂い、って感じです。ボーナストラックはシングルB面曲が1曲と、愛すべき”ライフ・アット・ブライアン・セッション”全曲(これの”Silver”は初出ですよね?)、プラス84年の未発表ライブが2曲。申し分なし。





















Felt "A Declaration" (DVD)
巷で話題のブツ。87年2月、ロンドンULUでのライブだそうです。8曲入り、約40分の演奏に”Stained Glass Windows in the Sky”のPVがプラス。ふむ。一応買ってみることにする。
カメラ1台で撮られていて、なんか友達のバンドの昔のビデオを見ているような感じなんですが、紛れも無くフェルトであって、演奏はバッチシ堪能できます。87年といえば”The Final Resting Of The Ark”の頃か。”Ballad of the Band”なんかは、さすがに絶好調な感じが伺えます。モーリス・ディーバンクがすでに脱退していて、マーティン・ダフィ(現プライマル・スクリーム、ですか)が隅っこの立ち位置でキーボードをブイブイいわせています。いわゆるクリエイション時代の充実期であって、しかしチェリーレッド期の”Primitive Painter”のヒットを超える事はなく、みたいな微妙な時期だったかもしれなくて、この曲は本編ラストで演奏されているのですが、ややなげやり感が漂っていて、なんだかいいぞ。で、ステージは背後にすうっとスライド画像が不器用に映されるのだが、今ならもっとマシな事できるだろうけれど、視覚面で何かしら訴えようとしているバンドの姿勢は実に今風であって、グッと来る。もっとなんとかならんかったんかい、という感じではあるが。そう、フェルトって、すごいいいバンドだと思うのだけど、あらゆる面で中途半端なバンドだったな、と思ってしまう。個人的には初めて動くフェルトを見ることができたので、そういう意味では非常に貴重といえそうですが、それにしてもなぜ今頃になってこういうのが出るんだろう。不思議。西新宿あたりでも売ってそうで微妙な映像なのですが、一応これは公式のリリースのようです。謎は深まる。









Death Cab For Cutie ”Transatlanticism” (CD)
ええと、一応こういうのも聴く(笑)。いや今回のこのコーナーは、いくらなんでも懐かしモードが炸裂し過ぎか?なんて思ってしまって、そういうのもまあアレですので、一応最近のバンドで一押しの1枚を挙げてみました。といってもこれ、4作目のアルバムであって、新人でもなんでもない人達なんですけど、USインディの底力みたいなのをふつふつと感じ取ることができる、好ギターバンドだと思います。先ごろも来日したばかりで、なかなか良いライブだったそうですが、見ておきたかったかな。所詮オルタナという感じの音ではあるんですが、歪んだギターサウンドに破綻は無く、適当なようでいて緻密に練られたと思しきハーモニーが気持ち良くて、一筋縄でない感じがします。ところで、こういうのを「エモ系」とかいうそうですねえ。なんのことかさっぱりわからへん、なんて人もぜひ。いや私もようわからへん、なんや「エモ」って。まあええわ。次作あたりで大化けしてしまいそうな予感もしますが、とりあえずおすすめ。

というわけで以上、ほんとはもっといっぱい紹介したかったのですが、長くなりそうなので今日のところはこのくらいで勘弁だ。お料理がんばるぞ。というわけで、また来年だ。来年かよ(笑)。ではまた!いい気になるなよ。





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第1回:The Flaming Lips ”Zaireeka” の巻(2000.4
第2回:Dolly Mixture ”Demonstration Tapes” の巻(2000.5)
第3回:Various Artists“Caroline Now!”の巻(2000.8)
第4回:長谷川和彦監督作品「太陽を盗んだ男」 の巻(2000.12)

第5回:2000年度ベスト・アルバムの巻(2001.1)
第6回:Lou ”Search & Love” の巻(2001.3)

第7回:Honzi ”Two” の巻(2001.5)
第8回:「水不足問題について考える」 の巻(2001.7)

第9回:「グラスゴーの彼方に」 の巻(2001.10)
第10回:「2001年の収穫自慢」 の巻(2002.1)

第11回:「Some Candy Talking」の巻(2002.3)
第12回:「Yoshimi Buttles The Pink Robots」の巻(2002.7)
第13回:「I’m Trying To Brsek Your Heart」の巻(2003.2)
第14回:「Drive Me Crazy in 本牧」の巻(2003.4)
我ながら今回はちょっと支離滅裂な内容かもしれない。まあええわ。