松田の「これ知っとるか?」

16回:「Night Falls on Hoboken」の巻(前編)

2004.1

みなさんこんにちは。ベース担当の松田です。世の中的には新年ですね。ふむ。個人的な事ではありますが、今年はわたくし喪中でして、新年のご挨拶は控えさせていただきたい。なんて言っちゃうぞ。悪く思うなよ。というわけで、この年末年始は人知れずのんびりとひっそりと過ごしたい気分だったので、思い切って私はニューヨークで年を越すことにしたのでした。そんなわけで、いつもは私のおすすめ盤などを紹介するこのコーナーですが、今回は暴走気味のレポート形式でお送りいたします。

しかしニューヨークといっても、私にはほとんど事前に情報が無かったのであった。なのでJFK空港に着いて,早速ビレッジボイスをチェックしてみて、私はうろたえてしまった。ニューイヤーズ・イヴであるところの12月31日には、各スポットでいろいろなライブがあることがわかったのだ。これはすごい!パティ・スミス、LUNA,、ガーランド・ジェフリーズ、ハービー・ハンコックに、その他諸々。.ふむ。特にLUNAだ。ゲストがMendoza Lineだって!これはオレ的にはなんといっても見ておきたい組み合わせではないか。どうしよう。LUNAとガーランド・ジェフリーズについてはそれぞれ2ステージずつあるので、上手い事ハシゴすることができそうだ。しかしである。さすがにここは私も迷ったのだが、その決心に揺るぎはなかったのだった。そう、あらかじめ行く先はホボーケンに決めていたのだ。そう、ヨ・ラテンゴのライブで、2004年のカウントダウンなのだ。

ここのところ数年、暮れにホボーケンのMaxwell'sでヨ・ラ・テンゴがスペシャルなライブをやっていて、今年も大晦日にそれがあるらしいという情報だけは事前にわかっていたのです。いや、ホボーケンには1度行ってみたかったし。そして、私はヨ・ラ・テンゴのアイラ・カプランに渡すためのCDを東京からわざわざ2枚持ってきているのだ。うまく渡せたら良いんだけどなあ、なんて思いつつ、したたかに。まずはさて、その2枚のCDとは?という話から始めなくてはならない。

1枚はBeatmasの「クリスマス・アルバム」である。きっかけは、先ごろ私が見に行った東京公演(12月3日)の時のこと。「日本の風習ってよくわからないんだけど、訊きたいことがあるんだ。あの、ビートルズのアレンジで歌われているクリスマスソングって一体何なの?」というようなアイラ・カプランのMCがあったのだ(この件についてはヨ・ラ・テンゴのオフィッシャル・ページでも言及されています。興味のある方はこちらをどうぞ。Dec15 2003のところです)。さすがに客席からはノーリアクションだったのだが、確かに事情を知らない人にとっては、なんのこっちゃいと思ったかもしれない。しかし私にはそれが何を指しているのかは、わかった。そう、パルコでかかっていたアレだ。あのクリスマスシーズンにパルコ館内でその音楽は、ずーっとかかっていたのだった(ちなみにこの時の来日公演のうち大阪、名古屋、渋谷がクアトロ。すべてパルコの館内にある)。実は私も「なんだろ、あれ」と気になっていたのでした。で調べてみてわかったのが、このCDだった。さっそく購入して、これをアイラにプレゼントしてしまおう、と思ったのだった。しかしこれは、姑息ながら一種の掴みに過ぎなかった。

重要だったのは、もう1枚の方です。そう、Lou's Pale Horseの「灰色プリン」である。このCDに入っている”Simple Song”という曲は、ごく個人的なことではあるけれど、ヨ・ラ・テンゴへのオマージュになっているのです。というのもこの曲のベースラインはヨ・ラ・テンゴの、とある曲のベースラインをなぞったものなのだった。といってもべつにこれは特に「ヨ・ラ・テンゴのアレをパクっちまおうゼ」などという確信犯的なものではないの。そもそも、うちらのメンバーの皆さんは、ヨ・ラ・テンゴを聴いたことは(多分)無かったかもしれないし、ましてや私さえ「この曲はヨ・ラ・テンゴっぽくやろうぜ」などと言った覚えだってないのであって、実際のところ、最初はほとんど私の手癖みたいなもので、あのフレーズを弾いちゃったんだな。しかし、それがハマっちゃったんだねえ、みたいな感じだったのだ。しかしなんとなくだけど、ドラムパターンなんて、不思議なくらい似ているような気がする。久保田さんはさすがだ、と思った。いや、関心してる場合じゃなくて、この事で私には少々後ろめたいところがあったのは事実なのです。で、これは自らヨ・ラ・テンゴの皆さん(というかアイラ)に報告せねばなるまい、なんて思ったのだった。感謝と敬愛の意を込めて。


ホボーケンは、マンハッタンからハドソン河をまたいだニュージャージー州の東端に位置する。ニューヨークからは33丁目のペン・ステーションから電車で30分位の距離にある港町です。ホボーケンといえば、80年代カレッジチャートものの愛好家にとっては、フィーリーズとかdb'sらゆかりの場所としてお馴染みかもしれないですね。「ホボーケン・ポップ」なんて言葉も雑誌で見たような記憶があるし。あ、もちろんヨ・ラ・テンゴの地元でもあります。なわけで、私はぜひ一度行って見たかった町だった。なんだったら新年があけても、もう1泊くらいしてみようかな、なんて思ってもいたのだけど、ホテルが見つからなかったので断念しました。しかし、もし1泊していたとしたら私はそこでどんな元旦を過ごしていただろう、なんて想像すると、おかしくて笑ってしまう(笑)。いや、なんていうか、とにかく普通の住宅地といえるような場所だったので、ここいら辺に住んでいる人達は、正月には逆にニューヨークに出かけたりするのではないか、なんて思ったのでした。まあ、そんなのどかな雰囲気のところで、特に何があるわけでもなさそうな町ではありましたが、非常にピースフルな住宅街だと思った。

20時30分、ホボーケン駅を降りると、永遠にまっすぐと延びているようなメインストリート(Washington St.)をひたすら歩き、Maxwell'sを目指す。途中、もしかして通り過ぎてしまったかな?なんて不安になって、何度も通行人に「Maxwell'sはこっちでいいのか?」と訊いてしまった。「オーゥ、私達もそこに行くところなのよ」という人がいたので、ひっそりついて行くことにした。そして約10分ほど歩いて、ようやくMaxwell'sにたどり着く事ができた。正面がバーになっていて、ガラス窓から中を覗き込んでみると、ワーオ!ジェームズがすぐそこに座っているのが見える。いきなり高揚してしまう私だ。

21時過ぎ。ちなみにチケットは売切で、私はチケットを持っていなかったのだけど、Maxwell'sのホームページを通じて、事前に1人分をキープしてもらうことができたので、ハラハラしたのだが、無事入場することができました。まずは感謝。で、入口を抜けるとTシャツ物販コーナーになっていて、なんとアイラ・カプランがすぐそこに座っているではないか!こりゃCDは楽勝で渡せそうだ。日本では1着もTシャツを買わなかったのだけど、旅の浮かれ気分も手伝ってか早速、列に並び、Tシャツを物色する私だ。すると、お?やべえぞ??なんかアイラがさっきからオレのことを見てるゾ???いや実はこの時、私はニューヨーク・メッツのロゴが入った毛糸の帽子を被っていたのですが、多分そのせいだったのかもしれない。あるいは何か変なヤツが来てるなあ、と単に思ったのかもしれない。

で、いきなり本題に入るオレだ。早速アイラに話しかけちゃうオレだ。それはこんな感じの、ごく短いやりとりだった。


松田 「あのー、ええと私、東京から来たんです」

アイラ 「オーゥ、サンキュー」


握手。感無量。

松田 「えーとこれ、あなたにプレゼントなんです。あのビートルズのクリスマス・ソング」

アイラ 「んー...ん?ワッハッハ!サンキュー。うははは」

うわ、なんかいきなりウケてるゾ(!)。そして早速CDケースを開けて覗き込むアイラ。再び握手。掴みはオーケーだ。私は調子に乗って、さらにまくしたてる。

松田 「この帽子、いいでしょ。ニューヨーク・メッツ」

アイラ 「イエー、アイ・シー」

よく言うよオレ(笑)。


松田 「あと、このCDもぜひ聴いてください。私はベースを弾いているんです」


「灰色プリン」のCDをアイラに渡す。ドキドキだ。

アイラ 「ルーズ・ペイル・ホース!イエー」

松田 「そうです!この”Simple Song”って曲は、ヨ・ラ・テンゴ・スタイルなんですよ」

アイラ 「......」


う。まずい。ちょっと不思議そうな顔をしている。Beatmasの後で、この言い方はちょっと良くなかったかも、と後になって気づく私であったが、まあいいや。いや良くないか。

松田 「あのー、一緒に写真を撮ってもらってよいですか?」

アイラ 「シュアー」


その辺にいる人ではなく、わざわざヨラのクルーの一人をつれてきて撮影を頼むアイラ。その間、その人とアイラと私はわずかな会話をした。「この人東京から来てるんだってよ」「へえ」「ニューヨークにいるんでしょ」「イエス」「何日くらいいるの?」「6日間です」「日本でもライブ見たことあるの?」「...4回ほど」「ほう」みたいな内容だったと思うのだけど、なにしろ意味が通じていたのか、会話がかみ合っていたのか、自信がないのですが。しかし、なんていい人達なのだろうと思いました。アイラ・カプランは優しかった。それにしても、ああ、写真...(泣)。


その時の帽子。投げやり。


ちなみにその後もアイラやジェームス、ジョージアの3人はバーの中を気さくにうろうろしていて、いろいろな人と談笑していました。その間、アイラは右手に2枚のCDを掴んでいた(笑)。なんかそれが、嬉しくておかしかった。果たしてアイラはそれを聴いてくださっただろうか。


フロントアクト、The Mad Sceneの演奏が終わって、バーに戻ると、またも3人はそのあたりをウロウロしていた。私はそれ以上は話しかけなかったけど、何度かアイラと目が合って、なんだか恥ずかしかった(笑)。そして、トイレの列に並んでいたら、ふと気がつくと後ろにアイラが並んでいたのは、ちょっと自慢だ。私は気がつかないふりをしていたのだけど。

そんな風にして、とても幸せな待ち時間はすぐに過ぎていった。あの凄い演奏がはじまるのは、まだこれからなのだ、と思った。

そして11時58分。でかいマシュマロのような着ぐるみに包まれた3人がステージに現れて、カウント・ダウンが始まった。










以下、(後編)へ続きます。
記憶が温かいうちにアップいたしますので、乞うご期待。



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第1回:The Flaming Lips ”Zaireeka” の巻(2000.4
第2回:Dolly Mixture ”Demonstration Tapes” の巻(2000.5)
第3回:Various Artists“Caroline Now!”の巻(2000.8)
第4回:長谷川和彦監督作品「太陽を盗んだ男」 の巻(2000.12)

第5回:2000年度ベスト・アルバムの巻(2001.1)
第6回:Lou ”Search & Love” の巻(2001.3)

第7回:Honzi ”Two” の巻(2001.5)
第8回:「水不足問題について考える」 の巻(2001.7)

第9回:「グラスゴーの彼方に」 の巻(2001.10)
第10回:「2001年の収穫自慢」 の巻(2002.1)

第11回:「Some Candy Talking」の巻(2002.3)
第12回:「Yoshimi Buttles The Pink Robots」の巻(2002.7)
第13回:「I’m Trying To Brsek Your Heart」の巻(2003.2)
第14回:「Drive Me Crazy in 本牧」の巻(2003.4)
第15回:「こんなん聴いてましたけど」の巻(2003.11)
(蛇足)



ちなみにパティ・スミスは3daysあったので、別の日に見ることができました。
"Gloria"や
"Nigger"などの定番的?な曲はやらなかったけど ”Break It Up”とか"Ghost Dance","We Three"など、わりと渋めな曲が聴けたのはうれしかったです。最後は"25th Floor"が披露され、「ニューヨーク!」と言って去っていったのがカッコよかった!あとストーンズの"Salt of the Earth"のカバーをやったのはしびれた!また、フロントアクトが息子のジャクソン君がギターを勤めるBack of Spades.だったのは得した気分でした。ラフなギターサウンドがなかなかかっこよかったです。


The Beatmas
”X'mas!'

全編ビートルズの曲のアレンジで歌われるビートマスのクリスマス・ソング集。すごくよくできていて、初めて聴いた時は、ちょっとびっくりしました。「プリーズ・プリーズ・ミー」のアレンジによる「ジングルベル」、「タックスマン」な「赤鼻のトナカイ」、「ルーシー・イン・ザ・スカイ」な「きよしこの夜」が特に秀逸。この人たちはデンマークの覆面バンドだそうで、スカンジナビアあたりでは結構有名なバンドだそうです。95年の作品。













関係ないですが、昔クロスビートという雑誌で、中川五郎さんによるフィーリーズのインタビュー記事がありました。私が知っている中ではそれが唯一の日本語で読めるインタビューだった。88年頃でしたかね。その頃中川さんは同誌で連載記事を持っていらして、そこでホボーケンについて触れられていたものがあったような気がするのだけど、記憶違いかもしれない。












なおこの日の入場料はビュッフェ付で40ドル。通常のチャージは10ドルくらいだから、結構するんですね。


アイラ・カプランはニューヨーク・メッツのファンとして有名。「クッキーシーン」という雑誌では野球に関するコラムを連載しています。メッツといえば先ごろ西武ライオンズの松井稼頭央選手が移籍しましたよね。活躍すると良いですね。







あのー、今回は、現地でふんだんに撮影した写真を大フィーチャーしてお送りしたかったのですが、実はですね、なんと、なんとも!!あろうことか撮影したデジカメのメモリーカードを旅の途中で紛失してしまったのですよ!あーあ!!!いやもう、取替え用のメモリなんて持っていかず、1個だけにしとけば、こんなことにはならなかっただろうになあ!せめてアイラと撮ったおバカな(失礼)2ショット写真だけはなんとかならないだろうかと切に思う。一生の後悔。