ヨ・ラ・テンゴファンの皆さん、お待たせしました。今回は、2003年12月31日、ホボーケンのMaxwell'sで行われたヨ・ラ・テンゴのライブレポートをお送りします。
(前編から読む)
1月16日付で更新されているヨ・ラ・テンゴの公式ページによると、そのかぶりものはマシュマロでは無くて、卵をイメージしたものだったらしいということが判明(写真も出ているので興味のある方はこちらをご覧になってみてください。下の方です)。で、カウントダウンと共にその卵の着ぐるみが真っ二つに割れて3人が登場するという、なんともパーティなオープニングだったのであった。いや、なにしろここは彼らの地元であって、新年の始まりなのである。
この日のショウは2部構成になっていて、例によって意外な曲から演奏は始まった。
1.
Tonight's the Night 2. Today is the Day 3. (不明) *ガレージっぽい曲でした 4. We're an American
Band 5. Season of the Shark 6. Winter a Go Go 7. Tiny
Birds 8. Whole of the Law 9. Nothing But You and
Me 10.Lewis 11.Deeper Into Movies 12.I Heard You
Looking 13.Detouring America With Horns
(休憩。この間、ゲスト=Fred
Armisenによる10分ほどのパフォーマンスあり)
14.Georgia vs Yo La
Tengo 15.Cherry Chapstick 16.Out the
Window 17.(不明) *Black
Flagの曲、というMCあり 18.Our Way to Fall 19.Let's
Save the Tony Orando's House 20.I am Just a Mops 21.The Little
Black Egg 22.(不明) *Whatever、と曲目表には書いてあります。 23Autumn
Sweater 24.Madeline 25.Tom Courtney 26.Blue Line
Swinger 27.Take
Care
以下、箇条書きにて実況解説。
・1曲目はニール・ヤングのではなくて、ロッド・スチュワートの曲です。いきなりだ。ヴォーカルはジェームス。これがなかなかいい感じの演奏だったのですが、しかしその時の私にしてみれば、謎な選曲ではあって、どうやらこれは、卵から出てくるという演出も含めて元ネタがあったそうです。「Booby
Hatched」というアニメ番組のパロディだったそう。その番組の主題歌だったのが"Tonight's the
Night”なのだそうだ。
・で、2曲目のタイトルと微妙に対になっているところも見逃せない。偶然ではないと思われる。よくやるよ(笑)。演奏されたのはシングルバージョンの方です。
・3曲目は不覚ながら私の知らない曲で、おそらくカバーかもしれないです。
・静かな曲を、といって披露された8曲目はオンリー・ワンズのカバーで”Painful”に入っているやつです。生で聴いたのは初めてだったのでうれしかった。
・続く"Nothing
But You and
Me"というのは、そうです日本でも大いに盛り上がったあれだ。最新アルバム「サマーサン」の中で、最も地味な印象があるこの曲では、カラオケの演奏で遠くを見つめながら情緒たっぷりに歌うアイラの隣りで、ミュージカル風に華麗な振り付けを披露するジョージアとジェームス、というコントラストがなかなかに笑える演出なのですが、ここではなんと冒頭からアイラが客席に下りてくる!しかも、インタビューみたいなことをして客をいじるんだな。英語がわからない私は思わずよけてしまいました(笑)。
・で今回近くで見て気がついたのが例の振り付け、ジョージアは恥ずかしくってしょうがないという感じなのですが、ジェームスは終始真顔でノリノリでありました。よくやるよ(笑)。
・続く"Lewis"はセカンドアルバムからの曲で、これが聴けたのも嬉しかった。最近のライブとしては、けっこう珍しい選曲なのではないだろうか。
・"Deeper"はMad
Sceneのメンバーがミニ・ドラムキットで参加。これが今ひとつリズムが合っていなくて、ドタバタと聴きづらい演奏であったのだが、激しいバイブが伝わってきて自ずと血が騒ぐ。
・で珠玉のインスト曲"I
Heard You
Looking"で怒涛のエンディングに突入だ。アイラ・カプランはしゃがみこんだり、ストラップを外してネックを持ってギターを振り回したりしながらの激しいギターインプロビゼーションを披露。まさに全身全霊という感じで目頭が熱くなってくる。これはもう名人芸と言える域であって、何度見てもスゴイっす。後半でAメロのリフレインに戻るところで歓声があがるのは東京でも同じだった。
・"Detouring"もなかなか珍しめの選曲ではなかったかな。ああもう、この曲もオレ大好きだ。これにて一部は終了。美しい余韻だった。
・ゲストのFred
Armisenとは、米国のテレビ番組「サタデイ・ナイト・ライブ」のレギュラーだったこともあるらしいコメディアンだそうです。ヨ・ラ・テンゴの幅広い交友関係が窺い知れますねえ。前歯が金歯の人で、笑うと凄みのある人だったです(笑)、スタンディングで喋りと軽くドラムソロのパフォーマンス。このドラムがなかなか上手かったので、私は思わず唸った。
・続いて2部。14.15曲目はジェームスがドラムを叩く。15曲目はわりと速い曲なのですが、バスドラのテンポがけっこうヘタっておりました。よくやるよ(笑)。
・17曲目は「もう1曲パンクな曲を」とのMCあり、Mad
Sceneのフロントの人がボーカルを取る。ちなみに私は運良く2部の曲目表を終演後ゲットしたのだが、その手書きのセットリストには載っていなかった曲だ。おそらく予定外での演奏と思われます。ちなみにBlack
Flagのカバーとしては過去、"TV
Party"を演奏したことがあるようですが、これはその曲ではないです。
・20曲目は先の来日公演の際に「日本の有名な曲をやるよ」というMC付で披露されたそうですが(12月4日の方ですね、私はこの時は見てないのです)、ほとんど誰もがその曲を知らなかったというモップスのカバーです。なんかのインタビューでこの曲は、日本のファンのために特別に演奏したとかなんとか語っていたアイラですが、となるとこの日のはきっとオレのために演奏されたに違いないです。ふむ。。
・続く21曲目もカバー曲で、オリジナルはナゲッツ4枚組ボックスの2つめに入っているNightcrawlersで良いのかな?プリミティブスやレモンヘッズも地味にカバーしている佳曲です。この曲でアイラは唯一、ダン・エレクトロ社製の12弦ギターを披露。Mad
Sceneの残りのメンバー3人がオープニングでヨラが使用済みの被り物を着てステージに登場。いやはや卵ネタの曲であって、見事な使い回しというわけですが、よくやるよ(笑)。3人で仲良く歌詞カード片手にリードボーカルをとっていました。アイラに無理やりにやらされている感あり(笑)。
・23曲目は先のFred
Armisenがパーカションで参加。しかしなんていうか、いかにもリハーサル無しという感じのラフなセッションではあったかな、これは。
・幾分唐突な感のある24曲目は"And
Turned〜"に収録されている比較的地味な佳曲。あのひんやりとした感触のアルバム後半で、一瞬だけうっすらと陽が照らされるようなこの曲は、オレ的には非常に重要であって、改めて良い曲だと思った。
・26曲目は間違いなくこの日のハイライトといえるでしょう。日本公演時でもリクエストの多いこの曲は、決して毎回演奏されるわけではなくて、この曲が聴けた日は運が良いと思わなくてはならない。この燃え尽きてしまうようなラストは、いつだって圧巻だ。
・最後に披露されたのは、アルバム「サマーサン」でもラストを飾っていたビッグ・スターのカバー曲だった。アンコールは無し。来日公演では必ず本編ラストで演奏されていたという"Nuclear
War"も、そういえばやらなかったのだけど、きっと意図的なものがあったんだろうなと推測する。同じく来日公演でふんだんに演奏された「Fake
Book」からの曲もそういえば一切やらなかった。あのアルバムは全編、やや異質なカントリータッチの内容で、来日公演のタイミングで国内盤が再発されたりしていたわけですが、私は「ああ、最近またこういうモードなのね」なんつって勝手に思っていたのだけど、あれはいわゆるファン・サービスみたいなものだったのかもしれない、と思った。
見終わって感じたのは、なんていうか来日公演の時よりも場がカジュアルな雰囲気だったことだった。それなりに熱心そうなお客さんの反応は、決して悪くなくて、むしろマナーが良いくらいなのだけど、東京で観た時のように熱狂が渦巻いているような雰囲気は無かったような気がする。まあ地元だし、小さなハコだし、というのも大いにあるかもしれない。その雰囲気から醸し出される、いわゆる何が起こるかわからないようなマジック、みたいなのはこの日はあまり無かったような気がした。その反面、ヨ・ラ・テンゴが醸し出すサービス精神みたいなものが、強く印象に残った。それがとても良かった。
気がついた時は、夜中の3時を裕に過ぎていた。私は「テイク・ケア」の余韻を反芻しながら幾分、感極まった状態でホボーケン駅まで歩き、グリニッジビレッジのホテルへ帰った。そして、考えてみたら私はホボーケンには夜の間しかいなかったのだなあと思った。なかなか長い一時だったと言えるかもしれない。この日のことは、ものすごく記憶に焼きついているのだけど、その後のことはいかんせん記憶に残っていなかったりする。そんなふうにして、2004年は刻々と始まっていて、もう2月も半ばを過ぎてしまった。
旅行を終えて家に帰って、久しく聴いていなかったヨ・ラ・テンゴの2nd+3rdのカップリングCD"President
Yo La Tengo〜New Wave Hot
Dogs"を聴いてみた。国内盤ライナーは永井睦子さんによるもので、こんな一文があった。
「今回彼らと接触を持って感じた事は、言葉の聞こえが悪くて申し訳ないのだが、YLTは物凄く『プロの集団』だという事だ。サウンド面だけではない。とにかく自分達の置かれている状況判断から物の優先順位まで神経を配っているのだ」
うーん、そうかもしれないと思う。なかなか説得力があると思う。聞くところによるとアイラ・カプランは音楽誌のインタビューなんかだと、あまりまともに音楽の話はしたがらないそうで、野球の話とかになると止まらなくなるらしいですが(笑)、でも例えばカバー曲のレパートリーだけ見てみても半端でない音楽リスナーであることは明白だったりする。何よりここ最近のアルバムを聴くと、内容の良さはもちろんであって、全体的に自由で常に新鮮な感覚があって、なんていうか良い言葉が見つからないのだけど、物凄く表現ひとつひとつに鋭い選択眼みたいなのを感じ取ることができる。要するに頭が良くて、でも頭でっかちではないのだ。そしてライブでは、あのテンションだ。なかなかにしたたかであって、でもあえておバカなこともやりたがり屋さんな人たちで、けっこういい歳している人たちのはずだけど、この絶妙なしなやかさ加減は一体なんだろうと思う。多くのバンドにとってそうかもしれないけれど、Yo
La Tengoは私にとってひとつの指標だ。こういう人たちがいてくれて本当に良かったと私は思った。love。
home
第1回:The Flaming Lips ”Zaireeka” の巻(2000.4)
第2回:Dolly Mixture ”Demonstration Tapes”
の巻(2000.5)
第3回:Various Artists“Caroline Now!”の巻(2000.8)
第4回:長谷川和彦監督作品「太陽を盗んだ男」
の巻(2000.12)
第5回:2000年度ベスト・アルバムの巻(2001.1)
第6回:Lou ”Search & Love” の巻(2001.3)
第7回:Honzi ”Two” の巻(2001.5)
第8回:「水不足問題について考える」 の巻(2001.7)
第9回:「グラスゴーの彼方に」 の巻(2001.10)
第10回:「2001年の収穫自慢」 の巻(2002.1)
第11回:「Some Candy Talking」の巻(2002.3)
第12回:「Yoshimi Buttles The Pink Robots」の巻(2002.7)
第13回:「I’m Trying To Brsek Your Heart」の巻(2003.2)
第14回:「Drive Me Crazy in 本牧」の巻(2003.4)
第15回:「こんなん聴いてましたけど」の巻(2003.11)
第16回:「Night Falls on Hoboken(前編)」の巻(2004.11) |
(蛇足)
ちなみにMaxwell'sのキャパは東京で言うと、ちょうど移転する前の新宿ロフトくらいの大きさだったかな?あそこをもうちょっと細長くした感じで、200人くらいでいっぱいになりそうなサイズ。私はステージ向かって左側、前列2列目くらいの位置をキープしていたので、それはもうよーく見えました。ステージが低かったので、後ろの方にいたらよく見えなかったかもしれない。
で今回、これは地元ならではだなあ、と思ったのはアイラ・カプランのスペアのギター。5本位ズラリと用意されてました。ほとんど曲毎に使い分けていて、メインにメタリック・レッドのジャズマスター(オールドと思われる。かっけー)と日本公演でもおなじみだったウッディのストラトをほぼ交互に使ってました。ステージは横幅が狭くて、楽屋がステージとつながっていないので、ローディの人はステージ隅に立って次に使うギターをチューニングをしていたのだけど、あれ、やりにくかっただろうなあ。
ちなみにアルバム"Ride
the
Tiger"のライナーによると、アイラ・カプランはヨ・ラ・テンゴを結成する前に、このMaxwell'sでPAオペレーターをやっていたそうです。へえ。けっこうな歴史があるハコのようで、前回触れたdB"sやフィーリーズにとってのホームグラウンド的な所だった模様。ちなみにブルース・スプリングスティーン「グローリーデイズ」(でしたっけ?)のPVが撮影されたのもここなのだそうですよ。へえ。
ディスコグラフィとか資料的な記載を一切省略して突っ走っておりますが、まあいいですよね。ヨ・ラ・テンゴを聴いたことがないけれど何から聴けばよいか、というご相談については、どれもいいから、とりあえずジャケット見てピンときたやついっとけ、なんて言ってしまいます。あでも1st"Ride
the
Tiger"は、今とは違うバンドと思った方が良いかもしれないので、最初の1枚としては、あまりおすすめしません。あといきなり"Fake
Book"を聴いても誤解が生じるかもしれない。ふむ。ちなみに私は「フリーダム・オブ・チョイス」(92年)というニューウェイブカバー集(ブロンディをカバーしていた)あたりから意識し始めて、"Shaker"のシングルを中古でゲット、という感じでした(安かった)。しかし「ペインフル」(93年)ともども、なぜか当時はピンと来なかったのであまり聴いてなかった、という過去が私にはあるので、偉そうなことはいえません(今となっては重要なアルバムだと思うので)。で次の「エレクトロピューラー」(95年)は見送ってしまい、しかし次の「アイ・キャン〜」(97年)には非常にグッと来るものがあって、はまった。それでそれまでの作品をざっと買い集めたりしました。そしてあの素晴らしかった98年の来日公演があって、その後はもう...、という接し方をしています。そういうわけで、いろいろな聴き方・接し方があると思うわけです。関係ないですが「アイ・シュット・アンディ・ウォーホル」という映画でヨ・ラ・テンゴはベルベット・アンダーグラウンド役!をやっているらしいのですが、これいまだに見てないんですけど、どうなんでしょうかね。
Fred
Armisenってオレ、どっかで見たことがあるよなあ、勘違いかな?と思ったのですが、やっぱり!「ウィルコ・フィルム」にちらっと出演していますね。「ワンツースリ〜、ワンツースリ〜」のあの人です。あの顔とあの喋り方は、ちょっと忘れがたいものがある(笑)。
おバカといえば"Sugarcube"のPVは外せないかな。オレこれ、ほんとに大好きだ。マタドールのサイトで見れるようですので興味のある方はご覧ください。ルー・リードの写真を先生に見せる場面がなかなかツボです。
あとヨラ公式サイトで「Yo La Tengo Sell
Out」と題してコカコーラ社のためのCMソングや禁煙化運動?のためのテーマソングをプレゼンしてるのも、なんかの冗談だと思うのだけど、面白いですね。
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